- 認知症(Dementia)はDSM-5(2013年)では,Neurocognitive Disorders(精神認知障害)という用語が導入され,
Dementiaの代わりにMajor neurocognitive Disorderという用語が用いられています。
- 近年,「中核症状」は「認知機能障害」とし「周辺症状」は「認知症の行動・心理症状(BPSD)」と用語が変更しています。
- DSMとはアメリカ精神医学会が策定している精神疾患に関する診断基準です。
最近,以前に比べて何か様子がおかしい・・・
もの忘れ,状況判断,会話がちぐはぐになるなどの状態が現れた。
請求書の支払いや服薬管理ができなくなった。
うつ病や統合失調症などの精神疾患ではない。
こうなると認知症を疑い,諸々の検査測定の必要が出てきます。
認知機能の評価表と認知症の診断:日本老年医学会
認知症で認められる認知機能障害
以下の症状などがあります.これらの症状について南風では神経心理学検査を作業療法士が実施しています。
- 全般性注意障害
- 作業のミスが増える.ぼんやりして反応が遅い。
- 遂行機能障害
- 物事を段取りよく勧められない。
- 記憶障害
- 覚えられない.思い出せない。
- 失語
- 発話,理解,読み書きの障害。
- 失算
- 暗算が困難になる。
- 視空間認知
- 道に迷う.動きがマネできない。
- 失行
- ジェスチャーができない.道具が使えない。
- 社会的認知
- 状況に応じた行動がとれない。
認知症診療ガイドライン2017:日本神経学会
認知症の行動・心理症状
Behavioral and psychological symptoms of dementia:BPSD
行動面:焦燥,興奮,攻撃性,脱抑制
焦燥性興奮,易刺激性,脱抑制,異常行動などが含まれます。
もの忘れなどを自覚し,不安,焦燥感が出現すると, 些細なことで不機嫌になりやすくなります。
周囲の不適切な対応により暴言,暴力に発展することもあります。
精神面:不安,うつ,幻覚,妄想
幻覚,妄想,夜間行動異常などが含まれます。
妄想は訂正のきかない思い込みで健忘や誤認などが加わって生じます。
アルツハイマー型では物盗られ妄想や被害妄想, レビー小体型では幻視・錯視により嫉妬妄想や幻の同居人などがよく知られています。
認知症診療ガイドライン2017:日本神経学会
認知症予防
認知症の危険因子
- 加齢
- 遺伝性のもの
- 高血圧
- 糖尿病
- 喫煙
- 頭部外傷
- 難聴
認知症の防御因子
- 運動
- 食事
- 余暇活動
- 社会的参加
- 認知訓練
- 活発な精神活動
厚労省:認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン).2015
認知症の危険因子(国際アルツハイマー病協会)
Early life(幼少期)
1.Less education:教育歴なし,小学校のみ
Midlife(45~65歳)
2.Hypertension: 高血圧
3.Obesity:肥満
4.Hearing loss:難聴
Later life(65歳以上)
5.Smoking:喫煙
6.Depression:うつ病
7.physical activity:運動不足
8.Low social contact:社会的孤立
9.Diabetes:糖尿病
引用文献:Livingston G, et al.Dementia prevention, intervention, and care. The Lancet, 2017;390(10113), 2673-2734.
あなたの脳を守る10の方法
- 汗をかく:脳や身体の血流を増やす
- 本気で猛勉強する:知的活動をする
- 禁煙
- 心疾患の予防:肥満,高血圧,糖尿病を予防する
- 脳を守る:頭部外傷を防ぐ
- 食事に気を付ける:野菜や果物を摂る.バランスのとれた食事
- 良質な睡眠をとる:不眠症や睡眠時無呼吸症候群を防ぐ
- 心のケア:うつや不安感が強くなったら受診する
- 社会と繋がりを持つ:地域社会に参加する
- 創作活動を行う:創作活動やジグソーパズルなど芸術活動を行う
引用文献:Alzheimer association:https://www.alz.org/help-support/brain_health/10_ways_to_love_your_brain
その他の認知症の危険因子
- 注意機能低下1)
- 同時に二つのことができなくなる
集中力が無くなるなど
- 自歯が少ない2)
- 20歯未満
- 多量の飲酒3)
- 14単位以上の日常的な飲酒
- 1)Saunders NL,et al. Longitudinal deficits to attention, executive, and working memory in subtypes of mild cognitive impairment. Neuropsychology, 2011;25(2), 237-248
- 2)西村一将, 他. 地域高齢者の20歯以上保有と軽度認知機能障害の関連:1年の前向きコホート研究.日本補綴歯科学会誌,2011;3(2),126-134.
- 3)Sabia S,et al. Alcohol consumption and risk of dementia: 23 year follow-up of Whitehall II cohort study. Bmj, 2018;362, k2927.
まとめ
- 現在国内外で認知症者の増加が大きな社会問題になっており,認知症の危険因子や防御因子に関する報告が散見されます。
- 認知症の危険因子や防御因子について厚労省と国際アルツハイマー病協会では多くの内容が重複しています。
- 生活習慣によって認知症を予防できるというのが厚労省と国際アルツハイマー病協会共通の意見となっております。
認知症の分類
- Alzheimer型認知症の特徴
記憶障害・語健忘
視空間障害
意味記憶障害
病識・自発性の低下
取り繕い反応
構成障害
初期からの遂行機能障害
衝動性・脱抑制
抑うつ・アパシー
易怒・粗暴行為・焦燥・興奮・拒絶・幻覚・不眠などのBPSDが80%に見られる
- Alzheimer型認知症へのケア
対象者の能力低下を理解し過度に期待しない
簡潔な声掛けを心掛ける
失敗に繋がる作業を避ける
障害受容を強いない
穏やかで支持的な態度で接する
不必要な環境の変化を避ける
- 血管性認知症(NINDS-AIRENの分類)
多発梗塞性認知症:
大脳の障害部位に応じて失語,失行,失認,視空間障害,構成障害,遂行機能障害,運動麻痺がおこる.
単一病変による認知症:
梗塞障害部位に応じて,記憶障害,意欲低下,無為,せん妄がおこる.
皮質では優位側の角回,前・中・後大脳動脈領域
皮質下領域では視床,前脳基底部などの梗塞が該当する
低灌流性血管性認知症:全脳の循環不全や低O2が原因
出血性血管性認知症:脳出血とクモ膜下出血が原因
- 血管性認知症の経過と予後
脳卒中を起こすたびに段階的に進行する
脳小血管病では緩徐性進行となる
生命予後が短いとする報告がある
高血圧,心房細動,脳萎縮と関連有り
- Lewy小体型認知症(DLB)
特徴:
変動する認知障害,パーキンソンニズム,具体的な幻視,REM睡眠行動異常症.
認知障害や幻視は覚醒レベルや注意レベルの低下で悪化する.
初期に記憶障害が目立たない場合が少なくない.そのため,記憶障害以外に注意,遂行機能,視空間認知の障害の有無を検討する.
パーキンソンニズム,歩行障害,自律神経症状,嗅覚障害,幻視,せん妄,睡眠障害,精神症状などがアルツハイマーと比較するとDLBに早期から多く見られる.
- 前頭側頭葉変性症の分類
1. 行動障害型前頭側頭葉変性症
2. 意味性認知症
3. 非流暢性/失文法型失語症
1.行動障害型前頭側頭葉変性症の特徴
進行性の異常行動と認知機能障害(両方もしくは一方)
早期からの脱抑制
早期からの無気力・無関心
共感や感情移入の欠如(反応性・人間的な温かさの低下)
固執・常同性
食習慣の変化・口唇傾向(異食症)
記憶・視空間認知は保たれているが遂行機能障害がある
前頭葉・側頭葉の萎縮
2.意味性認知症の特徴
物品呼称の障害
単語理解の障害
対象物の知識障害
失読・失書
復唱は保たれる
流暢性発語
発話は保たれる
70歳以上の発症は稀
側頭葉(前方)が委縮
除外基準
ATD,DLB,VaD,PSP,CBD,うつなどの精神疾患
3.非流暢性/失文法型失語症の特徴
顕著な言語障害
日常生活障害の主要因が言語障害
早期からの失語
記憶障害は認めない
初期の行動障害を認めない
発話における失文法
滞る発話,不規則な音韻
複雑な文の理解障害
個々の単語理解は良好
者についての知識は保たれる
左前頭葉後部・島の萎縮
主症状:核上性眼球運動障害,頚部後屈,無動,皮質下認知症
認知症症状の特徴:思考緩慢,衝動性,固執性,保続(皮質下認知症と総称される)
初発症状:2/3でバランス不良,構音障害,うつ,易刺激性,攻撃性,感情の不安定,アパシー,思考緩慢,記憶障害,複視,眼球乾燥など
進行型核上性麻痺の行動障害・認知障害
健忘,注意障害,無頓着,無関心.
思考緩徐が著名,反応速度の低下する
転倒に対し無頓着なので転倒を繰り返す
典型的臨床像:進行性かつ非対称性の失行,大脳皮質徴候,筋強剛,錐体路症状,極めて多彩
認知機能障害の特徴:遂行機能障害・脱抑制・行動人格変化・視空間障害・非流暢性失語
大脳皮質基底核変性症との合併が多い
特徴:高齢発症,記憶障害,頑固,易怒性,被害妄想,性格変化,暴力行動,緩徐性進行など
コリンエステラーゼ阻害薬は効果薄
特徴:
- 海馬を中心に神経原線維(neurofibrillary tangle:NFT)がある
- 老人斑をほぼ認めない
- 後期高齢者に多い
- 緩徐性進行
- 記憶障害で初発
- 他の認知機能障害や人格変化は比較的軽度
- せん妄は稀,軽度の錐体外路症候
- 海馬の萎縮,側脳室下角の拡大
特徴:常染色体優性遺伝.人格変化・認知機能障害(記憶・遂行機能障害)
うつ,不安,易刺激性,易怒,短気,固執,アパシー,保続がしばしばみられる
Creutzfeldt-Jakob Diseaseが70%を占める
特徴:急速性進行の認知症,小脳失調,錐体路・錐体外路徴候,四肢ミオクローヌス.
無動性無言に3~6ヶ月で進行する.
- 内科的疾患等
- ビタミン欠乏(B1:Wernicke脳症)
- 甲状腺機能低下症
- 神経梅毒
- 肝性脳症
- 特発性正常圧水頭症など
引用文献:認知症疾患診療ガイドライン2017.日本神経学会.